天皇陛下

天皇、皇后両陛下の「帝王学」に、現役外交官が脱帽! (宮本タケロウ)

文/宮本タケロウ

天皇に「勅任」される特命全権大使

憲法上「象徴」と定められている天皇だが、憲法の運用上、また外交儀礼上は実質上の「国家元首」として扱われる。

日本に赴任する諸外国の大使はその国の元首からの信任状を天皇陛下に奉呈するし、諸外国へ赴任していく日本の大使は天皇陛下の御名の入った信任状を任国の国家元首に奉呈することで公式に大使としての職務が始まる。

大使を信任状により認証するのは憲法に定められた天皇の「国事行為」だ。両陛下は国事行為により特命全権大使を認証した後、その大使夫妻を御所に招き、1時間ほど歓談される。この歓談は宮内庁の用語では「お茶」と呼ばれ、直近では11月1日にマレーシアに駐在する大使を御所に招き、歓談された。

映画鑑賞や記念式典への出席などのいわゆる「公務」ばかりが注目される皇室の活動だが、今回は、この国事行為たる特命全権大使との「歓談/お茶」について、とある外交官から聞いた話を紹介したい。

(※本記事は実話を基にしていますが、個人情報に関するものであるため、登場する国名と人名・地名は実際のものとは異なります)

赴任する大使との歓談

日本から東南アジアのある国に赴任する鈴木大使(仮名)が、同時期に赴任する大使夫妻数組といっしょに「お茶」のため、赤坂御所に招かれた時の話である。

英語が専門の鈴木大使は東南アジアの国に限らず、中東や北米など多くの国の大使館員として駐在した経験があった。世代が一回り以上違うため、外務省時代の雅子さまと特に面識があったわけではないが、共通の上司がいたりなど、「○○さんはお元気ですか?」など、特に雅子さまと会話が弾んだらしい。

和やかな会話が10数分続いた後、天皇陛下が「ところで鈴木大使は今までどの国で働いていらしたのですか?」と尋ねたそうだ。すると鈴木大使はこう答えた。

「幸運なことに、入省以来、様々な経験をさせて頂いておりまして、シカゴやハワイの領事館や東アフリカ、東南アジアですとカンボジア。直近では中東のヨルダンで務めておりました」(鈴木大使)

ヨルダンと聞いた天皇陛下は「ああ、ヨルダン。暑い国ですよね。私たちも新婚の頃に訪問させていただきました」と、新婚の2年目に雅子さまを伴って、中東を歴訪された思い出をお話になった。

(中東歴訪時の両陛下、1994年、サウジアラビア)

中東歴訪の思い出

サウジアラビア、オマーン、バーレーン、アラブ首長国連邦、ヨルダン…

天皇陛下と一緒に1994年から中東各国を歴訪した思い出話を、うなずきながら横で聞いていた雅子さまは、ふいに何か思い出したかのように、こう仰ったらしい。

「ヨルダンと言えば、日本が支援したワディ・アラブ・ダムの話を聞かせていただきました。でしたよね、陛下?」(皇后陛下)

すると天皇陛下は、さも当然のようによどみなく、こう続けてお話された。

「ええ、確か、ワディ・アラブ・ダムと、それと…ムディブ・南ゴールの灌漑設備でしたね。あの時は現地の皆さまには本当にお世話になりました」

ワディ・アラブ・ダムとムディブ・南ゴール灌漑計画とは、日本政府が80年代から、ODAで総額200億円ほどを援助した、ヨルダンで最も規模の大きい日本の開発協力計画である。

(ヨルダン訪問時の両陛下)

エリート外交官も脱帽の帝王学…

鈴木大使は急に話題に上っただけの国にも関わらず、もう20年以上前に訪問した国の地名やODAのプロジェクト名まで覚えている様子に驚愕したそうだ。

鈴木大使はその時の感動をこう語る。

「あの時の両陛下のご発言には本当に驚きました。いきなり『ワディ・アラブ』とおっしゃるのですから。もちろん、私は東南アジアの国に赴任していく身ですので、これから赴任する東南アジアについては私たちを招かれる前に、事前に予習されていたことでしょう。

ですが、『ヨルダン』は単にかつての勤務地として簡単に述べただけですよ!それなのに、地名まではっきりと。『ムディブ・南ゴール』など、その国で働いていた私でも、もはや覚えていない単語です。それをさも当然のように…!

しかも、調べましたら、25年前に両陛下が中東を訪問された時は、ダムにも灌漑設備にも直接に視察されていたわけではないんです。ただ訪問前に中東課の人間から『中東各国に対する我が国の支援状況』として進講されただけでしょう。お二人とも、たったそれだけで今まで覚えていらしているとは、『なるほど。帝王学とはこういうことなのか…』と実感いたしました」(鈴木大使)

「御進講」とは国内外情勢を政府や民間の専門家からレクチャーされる皇室用語である。民間人でも仕事の出張時はあらかじめその国や地域についての知識は調べてから行くものだろうが、おそらく普通の人は出張が終わればすべて忘れてしまうだろう。一般人にとってはただのその場限りの知識だ。

しかし、両陛下の場合はレベルが段違いに違う。「御進講」はその場限りの知識ではなく、自身の血肉として身に付き、今回の鈴木大使との歓談という、ふとした瞬間に活用されるまさに「帝王学」の一部なのだ

そして、その帝王学をしっかりと活用できる優秀さを両陛下がお持ちなのはあえて言うまでもないだろう。

我が国は政治家がダメでも、官僚がダメでも、天皇陛下さえご健在でいらっしゃればきっと大丈夫…こんなこと、官僚の私が言うとちょっとダメなんですが(笑)、本当にそう思わされた出来事でした」(鈴木大使)

昨今は政府の不祥事が尽きないわが国だが、天皇陛下の信任にしっかり答えられるように、政治家や官僚にはちゃんと頑張ってもらいたいものだ。


COMMENT

メールアドレスが公開されることはありません。